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異世界から来た妹

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    2019-02-22
    23:00
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作者コメント:

ラ「結論から言うとね、彼女は、あなたの妹よ」
…は?
名前も知らない女の子の、調査結果だとラムちゃんは言った。
俺が意識を取り戻すまでの三日間、俺を襲った謎の女の子について調べ上げたのだ、と。
いやー、しかし知らなかったなー。あの親父に、こんな可愛い隠し子こさえる甲斐性があったなんて(棒)。
ラ「それに関しては一応、ご両親は無実よ?保安省が徹底的に洗ったけど、お父様にもお母様にも、隠し子なんか影も形も無し。だけど、DNA鑑定の結果も、疑う余地は無いの。Y染色体もミトコンドリアDNAも、完全に一致。つまり、彼女は、同じ父親と同じ母親から生まれた、あなたの妹と言うことになるわ…」
ちょ、ちょっと待ってくれよ!隠し子はいない、それなのに妹って…まるっきり意味分かんないんですけどー?(汗)
ラ「まあ、そうなるわよねえ。パラレルワールド理論、この宇宙にはいくつもの、それこそ無限に近い異世界が連なっているって言う理論、知ってる?」
異世界っていうと…やたら露出度の高いエルフ耳の女の子が、紐みたいな鎧で暴れまわる、例のアレ?
ラ「うん、おおむねその認識で間違ってないわ。私も信じられなかったけど、彼女は、この『世界』の人間じゃないの。つまり、異世界からやって来た…あなたの妹、ということね。
名前はイク。中〇二年生。どこにでも居る普通の女の子。ただ、たったひとつだけ、彼女には特殊な能力というか、素質があった。異世界から異世界へと、時空の壁を超えて転移できる…ドリフターと呼ばれる力がね」
ええと、その…ナニそれ、ラノベ?ちゃんと現実のハナシしてる?ウソとかついてない?
ラ「残念ながら、ウソじゃなくて現実よ。彼女の大脳の記憶中枢から、直接読み取ったデータだから…」
なっ!なんだよソレ!?他人の頭の中、勝手に覗いたって言うのか!?そんなの、人権とか倫理とか、そういうアレじゃなくても絶対しちゃいけないコトなんじゃないのか!?
思わず、絶対安静の病室だというのに声を荒げてしまう。
確かに、ラムちゃんは腹黒くて計算高いけど、根は優しくてとってもいい子だ。そんなラムちゃんに、そんな非道な真似をやらせるなんて、やらせた奴が許せない!
始「…責めてやるな、命じたのは我じゃ。こともあろうに皇帝の許嫁を襲った大罪人、即座に首を刎ねられようとも文句は言えぬ。じゃが、この娘、どうにも妙な匂いがしたゆえな。頭を覗いてみよと、我が命じた」
俺の憤りを諫めるかのように、しーちゃんが苦々しそうに唇を噛む。
ラ「私のエジプト大魔術、ベイちゃんの黒魔術、おばあちゃんの仙術。ちゃんと術式設計して重ねがけすれば、たいていの不可能は可能にできるわ。もちろん、魔術倫理規定に触れるコトだけど、おばあちゃんの危惧は私にも分かった。ベイちゃんもね。だからこそ、規定違反覚悟で彼女の記憶を覗いたの。結果は、驚くべきものだったわ。それこそ、時空跳躍魔法の常識をひっくり返す論文が書けるくらいね」
そう言って、ラムちゃんが語り始めた話は、俺の頭では理解が追いつかないほど、非現実的な話だった。
ラ「実はね、こういうドリフターって、ごくごくまれに居るものなのよ。少ないながら、実例もいくつか報告されているわ。異世界と言っても、似たような世界ばかりじゃなくて、たとえば、恐竜が絶滅してない異世界に転移したら、哺乳類なんてイイ餌だし、太陽が赤色巨星化して水星みたいな灼熱地獄になった異世界なら、転移したとたんジュッと蒸発して一巻の終わり。ある意味、今まで無事だったのが幸運なくらいよ。
もっとも、そんなかけ離れた世界ばかりじゃなくて、砂浜の砂粒が一粒多いか少ないかだけの差異しかない異世界もあるし、そういう差異の少ない異世界のほうが、転移に要するエネルギーも低くて、転移しやすいという研究結果もあるわ。ドリフターといっても生物学的には普通の人間だし、空を飛ぶワケでも火を吹くワケでもないから、そういう近似異世界では周囲の誰も、もしかしたら当のドリフター本人でさえも、転移した事実そのものに気づかない。転移にともなう違和感も、ただのデジャヴュや勘違いとして済まされてしまうからね。
でも、彼女の場合…そうはいかなかった。彼女が居た元々の世界では、彼女とあなたは、仲の良い兄妹だった。恋をしていた、と言ってもいいほどね。でも、ある日突然、彼女は時空の壁を超えて異世界に転移してしまった。転移した先の異世界に、あなた…お兄さんは存在してなくて、理解を超えた現実に直面した彼女は、その『世界』を拒絶してしまった。それからよ、彼女のあてどもない異世界放浪の旅が始まったのは。
あなたの居ない世界、あなたが居ても他の女と恋仲で見向きもされなかった世界、あなたに騙されてバクチの借金のカタに売り飛ばされそうになった世界…とにかく『世界』は彼女に辛くあたったわ。記憶をモニタリングしていたベイちゃんが、思わず泣き出しちゃうくらいね…」
ドカッと椅子を蹴り飛ばして立ち上がり、黒陛下が肩を震わせる。そのまなざしの先には、いまだ意識を取り戻さない…俺の妹だという、イクちゃんが横たわっている。
黒「なんなのよっ!なんでこんな可愛い子が、そんな酷い目にあわなきゃなんないのっ!?いったいこの子が、ナニしたって言うのよっ!!」
自分の恋人を襲った相手だということも忘れ、ただただ純粋な憤りが吐き出される。
黒「こいつの妹で、今ここに居るんなら…あたしの妹も同然じゃない!あたしの大事な臣民じゃない!?なのになんで、そんな酷い目にあってるのっ!!なんで助けてあげないのっ!?皇帝として命じるわ!今すぐこの子を助けてっ!そんな酷い『世界』から、この子を救い出してあげてよっ!!」
仁王立ちで拳を握りしめ、皇帝陛下の威厳もかなぐり捨てて、黒陛下がぽろぽろと涙を流す。
…ああ、だから俺、黒陛下に惚れたんだよな。こういう、皇帝陛下っぽくないところに。
イ「…お言葉は嬉しいですけど、たぶん、そう簡単な話じゃないと思いますよ?皇帝陛下…」
いつの間にか、ベッドから半身を起こして、イクちゃんがこちらを見つめていた。
イ「寝てて、耳元でうるさいから聞こえてたんだけど…そういうコトだったのね。私にも分からなかったコトが、色々と分かったわ。私、時空とか転移とかってよく知らないから、悪い魔女が意地悪してるんだと思ってた。私と兄さんの仲を妬んだ悪い魔女が、私から兄さんを奪ったんだって。
…でも、そっか。おとぎ話じゃないんだから、悪い魔女なんか居るはずないもんね。なんのことはない、私が『世界』に嫌われてたってだけの、それだけのハナシだったんだね…」
その言葉に、思わず、駆け寄ってイクちゃんを抱きしめていた。
イ「…っ!に、兄さん!なによいきなりっ!?」
…キミみたいな子が、そんな悲しいコトを言っちゃいけない。誰もキミを、嫌ってなんかいない。
世界や悪い魔女が、どんなに意地悪しようと、キミは絶対負けたりなんかしない。
どんなときでも、俺が…お兄ちゃんが、キミを守ってあげるから!
イ「あ……」
瞬間、病室の空気がさざめき、周囲に微かなきらめきがまたたく。
ラ「…え?ちょ、ちょっとコレ!?ベイちゃん解析して!時空魔法陣の第三象限、座標軸のxy値!!」
べ「あ、はい!ただ今っ!え、えっとえっとえっと…凄いです、ラムセス様!時空のゆらぎが、急激に低下してて…あ、世界線も収束してますっ!ほとんど平常値!なんで?目の前にドリフターが居るのに、こんなコトありえるはずないのにっ!?」
黒「あのさ。頼むから、分かる言葉で喋ってくんない?つまり、どういうコトなのよ?」
いぶかしげな黒陛下に、ラムちゃんがちょいちょいと、抱きしめ合った俺たち兄妹を指さす。
ラ「つまりね、とりあえずは、めでたしめでたしってコト。良かったわね、ライバルがまた一人増えたわよ♡」
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